質問です

「イルカ先生、ベタな質問しますけど、怒らないでくださいね」

以前なら、いきなりワケの分からない質問を投げかけてきていたのに、成長したものだ。

イルカは息子の成長を喜ぶ父のような心境で「どうぞ」と言った。

「俺と生徒が崖から落ちそうになっています。どっちを助けますか?」

「……カカシ先生」

「俺を助けてくれるんですね!?」

「いえ、今のは呼んだだけです」

「酷いです。思わせぶりな態度は、自分も他人も不幸にするんですよ!?」

「そんな質問ごときで不幸になるワケないでしょうが」

呆れてそう告げれば、「俺の心は傷付きました」と切なげな表情を浮かべる。

「俺はカカシ先生を助けますよ」

案の定、パッとカカシの顔が明るくなった。

「っと思ったけど、やっぱり生徒」

ショックを受けているのが見て取れる。

「でも、やっぱりカカシ先生」

言った途端に喜んだ。

「あなた、犬みたいですね」

「犬は好きです」

「そんな事を尋ねた覚えはないんですが」

「ブサイクな犬ほど愛着がわくのは、どうしてでしょう」

「聞けよ、人の話」

言った後で、イルカはハッと何かに気付いたように、眉間にシワを寄せてカカシを睨みつけた。

「あなた、『人間もそうなんですよね』なんて言ったら、容赦なく殴りますよ。俺の顔は整ってないけど、ブサイクの域まで達してないはずですからね」

「言ってないし」

「思っただけでも同罪ですよ」

「大丈夫です。イルカ先生ならブサイク=愛嬌があるって変換可能ですから」

イルカは無言でカカシの首をキュッと絞めた。

「た……例え話ですよぉ」

「胸糞悪い例え話をありがとうございます」

イルカはパッと手を離した。離す寸前に一瞬力を込めてしまったのは手のイタズラで、自分の意思とは何ら関係がないのだと微笑みながら説明した。

「話がそれちゃいましたね」

カカシは喉元をさすりながら、もう一度質問を繰り返した。

「俺と生徒が崖から落ちそうになっています。どっちを助けますか?」

「どっちも助けませんよ」

沈黙が場を包んだ。

「俺と生徒が崖から落ちそうになっています。どっちを助けますか?」

「だから、どっちも放っておくって言ってるじゃないですか」

「鬼か、あんた!」

「やかましい、とりあえず冷静に考えろ!」

カカシは腕を組んで俯いた。

「何を?」

少ししてから、カカシは小首を傾げて訊いてきた。

「では、カカシ先生に質問です。あなたの職業は何ですか?」

「いやだなぁ、忍じゃないですか。ボケるには早いですよ」

イルカは無言で頭突きを食らわせた。

「痛いです」

「気持ち良いなんて言われたら、どうしようかと思いました」

「それもそうですね」

二人は静かに微笑み合った。

「っで、イルカ先生に質問です。俺と生徒が──

「どっちも助けねぇよ!」

「どっちか助けろよ!」

「崖ぐらい登れるでしょうが!」

イルカの言葉に、カカシはポンと手を打つ。

「そういえば忍でしたね、俺」

「そして生徒も崖ぐらい登れます」

「この質問、俺達には無意味でしたか」

「怪我をしているくらいの条件を加えるべきだったと言っておきましょう」

「んじゃ、次の質問いきますよ」

「天気が良いから洗濯しようかな」

イルカはさっさと立ち上がって洗濯機を回しに行った。背後でカカシが質問と喚いていたようだが、聞こえなかった事にしておく。

本日の天気・晴。

絶好の洗濯日和である。


2004.09.11

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