反面教師未満

放課後、生徒二人が口喧嘩をしていた。

双方言い分も聞かずに喚き散らしていたので、イルカは間に入る事にした。

「お前ら、自分の言いたい事だけ口にしていても、何の解決にもならないんだぞ」

「こいつの言う事なんか支離滅裂で聞けたもんじゃありません」

「自分の意見を正当化する事しか頭にない奴となんか、会話になんねぇよ」

二人同時にイルカを睨みつけてきた。

「それじゃあ、いつまでたっても解決しない。それどころか、これから先、生きていく上で余計な争いまで引き起こしかねないんだ。お互いの言い分を聞くのは大切な事なんだぞ」

なんて教師っぽいんだろう。むしろ大人な発言しているな。

イルカはちょっと満足げな表情を浮かべた。

「そうですか、では朝まで語り合いましょう。俺達二人の未来について」

突然イルカの背後に現れたカカシに、生徒二人は身体を仰け反らせて驚いた。

「カカシ先生」

イルカは表情そのままに、クルリと振り返る。

「はい、なんでしょう?」

「ややこしくなるから、出てこないでください」

「酷いです。話し合う事は重要だってイルカ先生が言ったんじゃないですか」

イルカはカカシの肩をガシッと掴んで顔を近づけた。

「あなたと俺とじゃ、会話が成立しないんですよ」

目を見開いて半笑いのイルカは、不気味な事この上なしだ。

「っと、まぁ、会話にならない相手が現れたら、さっさと排除するように」

向き直ったイルカは、いつもより優しい笑みで生徒に言い聞かせた。

「言ってる事が無茶苦茶ですよ、あんた」

「聞こえない聞こえない」

「子供ですか」

「真の大人なんて生き物は存在しないんです」

シッシッと手を振って追っ払っても去る気配がないので、とりあえず無視する事にした。

「分かったか?」

今の流れで何を分かれというのだろうか。生徒二人は顔を見合わせ、軽く首を振り合っている。

「まとめると、話し合いで決着つかないなら、拳で語れ?」

どこからそんな答えを導き出したのか、カカシがそう言うと、イルカは「殴りあうのはいけません!」と声を荒げた。

「大怪我したら、俺の責任になるじゃないですか!」

「イルカ先生って、一言多いよね」

はっはっはっとカカシは笑った。

「えっと、イルカ先生」

生徒の一人が口を開く。

「俺達、つまんない事で喧嘩してた。もう仲直りしたよ」

もう一人がコクリと頷く。二人はイルカと視線を合わせないようにしながら、少し大人びた表情で苦笑いしていた。

「分かってくれて嬉しいよ」

パッと明るくなったイルカは、肩を並べて去っていく二人を満足そうに見送った。

「これが本当の反面教師」

「何か言いました?」

「いえ、イルカ先生って立派な方だなって思っただけです」

その後、二人の生徒は立派な大人になったとか、ならなかったとか……。


2004.09.08

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