マイペース

カカシの胸に顔を埋めながら、イルカは唸っていた。

「えっと……イルカ先生、俺はどうしたら良いんでしょうかねぇ」

どう考えても、甘さの欠片もないムード。抱き寄せて、さぁこれからだって時に、何ゆえ彼は唸り出したのか。

「もしかして体調悪い?」

「……いえ」

「それならいいんだけどね」

下ろされている髪を優しく撫でた。

「……」

イルカは無言でカカシから離れた。機嫌が悪いのだろうか?

「えぇっと、本当にどうしました?」

「はたけカカシ氏に質問です。大の男が男に抱きついて、あまつさえ優しくされている光景は薄ら寒いものがあると思いませんか? イエス・ノーでお答え下さい」

「イルカ先生以外はイエス」

「っつーか、冷静に考えてどうよ! 色気!? 汁気!? んなもんねぇよ!!」

「今しがた、冷静になるまでウットリした顔してたくせに」

「あぁ、声だけで腰砕けそうになっちまいましたよ!」

「思っくそ色気も汁気もあるじゃないですか」

「やかましい、目を覚ませ! 汚れたフィルター取り替えろ!」

「とりあえず落ち着きましょう」

テンションに乗り遅れたカカシは、至極冷静にそう言った。

「っで、いったい何が不満なんです?」

「えっとですね、最近自分がえらく乙女チックなキャラになっているような気がしまして」

「可愛くて良いじゃないですか」

「うだつが上がらなさそうな凡庸中忍という魅力的なキャラが立たないじゃないですか!」

はたしてそれは魅力的なのだろうか。

「……むしろ、そのイメージを払拭できた事を喜ぶべきだと思うんですが」

しばし沈黙。

「言われてみればそうですね」

イルカは計算されたスマイル全開で、上目遣いにカカシを見た。

「カカシせんせっ」

甘えた声でガバリと抱きついてきた。

しばらくゴロゴロと懐いていたイルカだったが、ピタリと動きを止めて溜息を一つ。

「甘えてる自分を冷静に見ると、気色の良いもんじゃないですね」

「ってか、いつも通りでいいじゃん」

「んじゃ、眠くなってきたんで、寝ますか」

「いつも通りすぎ」

カカシのセリフを無視して、イルカはさっさとベッドに入って就寝した。

放置されたカカシが「もしかして、今日はそんな気分じゃなかったとか?」なんて気付いたのは、それからしばらくしてからの事だった。


2004.09.02

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