変な男3

「カカシ先生、もっと食べてください」

「いえ、もう吐きそうなほどお腹いっぱいです」

イルカの家で食事をとるのは毎度の事だが、なぜか今日はべらぼうに量が多い。残すのも悪いが、口を手で押さえて「本当に無理」と言った。

「何で今日はこんなに多いんですか?」

「今日、帰り道でフッと思ったんです」

「何を?」

「脂肪に包まれたカカシ先生って面白そう」

「ご馳走さまでした」

自分の食器を流しに持っていく。背後から視線を感じるが無視だ。

「面白そう」

イルカは再び呟いた。

「面白くない! そんなもん、絶対面白くないです。代わりに俺の踊りを披露してあげますから、それで満足なさい」

「つまんなさそうだから、見たくないです。むしろブラックニッカのラベルにいるヒゲのおじさん眺めてる方が笑えます」

「ウイスキーオヤジごときに敗北した俺はどうしたら良いのでしょうか……」

「彼に近付いてみてはいかがでしょう。恰幅のいいヒゲオヤジ」

「もう、何がなんだか……」

流し台の縁に手をかけて脱力していたカカシの肩を、イルカがポンと叩いた。

「元気がない時は、おにぎり食べると良いらしいです」

「優しい笑みを向けながら平然と嘘を吐かんでください」

「じゃあ、食え」

「いきなり命令口調もどうだろう」

「我侭ばっかり言って。どうしたら食べてくれるんですか!?」

「いい加減、そっから離れなさい」

「お断りだ!」

「断わるなよ」

「NO!」

「とりあえず落ち着きません?」

今、俺はちゃんと笑えているだろうか。もしかすると涙がこぼれているかもしれない。カカシは本気でそう思った。気持ちが伝わったのか、イルカが急に静かになる。

「冷静になって気付きました」

イルカは真剣な表情でカカシを見た。

「この方法だと、物凄く時間がかかりますね」

長期戦は嫌らしい。

案の定、次の日の食事は普通の量だった。

おおむね、いつもどおりの二人。


2004.08.27

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