煙草の味

「イルカ先生、それメンソールだよね」

「はぁ、よく女性みたいだって言われます」

喫煙所でバッタリ会ったので、二人は他愛無い会話を交わしていた。

「風邪の時は良いよね。でもやっぱり女みたい」

カカシはそこでハッとした。

「もしかして、昔付き合ってた女が忘れられなくて、同じ煙草を今でも吸い続けてるなんて理由じゃないですよね!? それなら俺と同じ煙草にしなさい!」

「はっはっはっ、カカシ先生。他にも人がいらっしゃるんだから、そういう発言は控えてください」

視線を逸らせながらイルカは笑った。数人いた喫煙者も同じように視線を逸らしている。

「昔は俺、普通のヤツしか吸えなかったんですよ。メンソールは口がスースーして気持ち悪くて」

「女は関係ないと」

「そろそろアナタの手を灰皿と間違えてしまいそうなので、そこから離れてください」

「はい、すみません」

「っで、ちょっと前の事なんですけどね、近所の煙草屋に俺が吸ってる煙草が何日か無かった事があるんですよ。遠くに買いに行くのも面倒だったんで、他のを買ったんです」

「それがメンソールだったんですね」

「はい。同じ値段の他のヤツは、どれも吸った時に致命的に不味かった覚えがあったんで、仕方なしに初めての銘柄を試してみたんです。数日後に元に戻したんですけどね」

「あれ? んじゃ、何で今もメンソール?」

「……それ以来です」

イルカは遠い目をした。

「メンソールじゃない煙草を吸うと、なぜか便所の味がするようになったのは」

カカシは自分の煙草を静かに眺めた。

「便所に味なんてないですよ」

「ええ、そうなんですけどね。でも便所を連想させる味がするんです」

カカシは吸いかけの煙草を消した。複数ある灰皿の付近でもジュッと火が消える音が聞こえる。

「あれ? まだ吸えるのに」

イルカは勿体無いと呟いた。

「人にそう言われると、なぜかそんな味がするような気がして……」

「案外、流されやすいんですね」

「……何とでも言ってください」

次に会った時、カカシはメンソールを吸っていた。

その日から、なぜかメンソールの煙草の売り上げがちょっとだけ増えたそうな。


2004.08.24

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