寝るのも一苦労

「イルカ先生、どうしよう」

「何がです?」

夜、今まさにベッドに入って眠ろうという時になって、カカシがオロオロとした様子で尋ねてきた。いつもの事ながら、まったく意味が分からない。このまま意味の分からない発言を続けるなら、ベッドから放り出して寝てしまおう。

「俺、大変な物を見つけちゃいました」

「何を発見したんですか?」

面倒くさかったけれど、一応訊いてみる。

「先生秘蔵のエロ本」

イルカは無言でカカシをベッドから蹴り落とした。

「ひどいです」

「人の部屋をあさらんでください」

ベッドの下に隠していた……というより、忘れていたエロ本。

思い詰めた顔でくだらない物を引っ張り出してくるのは勘弁して欲しい。

「俺がいるのに、エロ本が必要だなんて……」

「やかましい。男なら一冊くらい持ってる方が普通でしょうが」

「俺は持ってません」

「それじゃあ、カカシ先生は普通じゃないって事で。では、おやすみなさい」

「イルカ先生! 俺はあなたが、こんな十代前半のガキが見て喜ぶようなエロ本を必要としなくなるよう頑張りたいと思います」

「一応中身をチェックしたんですね」

「ええ、今後の参考にと思いまして」

「いっそ、エロ本見たかったって言われた方がマシでした」

「俺、妄想して楽しむタイプじゃないんで」

ベッドの下でクスリと笑うカカシ。嘲りを含んでいるように見えるのは、けっして被害妄想ではないはずだ。

「エロ本で勉強したイルカ先生の好みのシチュエーションをとくとご覧ください!」

「ああ、それ廃棄予定だった本なんで、あなたは俺に捨てられる勉強をしたと取ってよろしいんですよね。さようなら、今まで楽しかったです。そしておやすみなさい」

「まぁまぁ、夜は長いんですから、そう急いで寝る事もないでしょう。いい機会です。俺の好みのシチュエーションも聞いてみませんか?」

「時間に関しての考えは人それぞれ。俺は一刻も早く眠りにつきたいんですよ」

「俺は嫌だといいつつ、照れながら流される人が良いです」

「無視ときましたか」

「っと言うわけで、俺色に染まってください」

「気持ち良いくらい自己中心的ですね」

「いえいえ、中心は自分ではなくイルカ先生です」

「うわぁ、俺が中心なんだ、嬉しいなぁ。それじゃあ、俺のお願いきいてくださいね」

無邪気に笑うイルカに、デレッと締まりのない顔をしたカカシが「何なりと」と身を乗り出す。

「あんた、今日は向こうの部屋で寝ろ」

イルカはそれだけ言うと、布団をかぶって目を閉じた。

「……普通、ここで甘いムードになったりしません?」

「ならねぇよ」

イルカはそれだけ言うと、眠る事に神経を集中した。

数分後、モゾモゾとカカシがベッドに潜り込んでくる。

何やら妖しげな手つきで尻を触ってきたので、やっぱりベッドから蹴り出した。

「……言いたい事があるなら、どうぞ」

「ヤリたいです」

「……もう一度だけチャンスをあげます。どうぞ」

「大人しく寝るので、隣に入れてください」

「あんた嘘つきだから却下します」

「イルカ先生、酷いです」

カカシの情けない声を聞きながら、イルカは広いベッドで満足げに眠りについたのだった。


2004.08.13

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